STORY

「ゆかり、悪いけどそこのタバコ取ってくれないか？」 「んー」 無我の境地で落ちゲーに興じていた結月ゆかりは、ノールックでタバコを掴むと父の声がする方向へ投げた。この調子でいけば記録更新は確実である。 「おーありがとう。それから、悪いけど春からは男子校に通ってくれないか？」 「んー...

「『星宮オネ―――推定15歳、趣味は読書、周囲とのかかわりを極力持たず内向的な性格と見られる―――』……ふむ」 夕食後、リビングのソファでくつろぎながらゆかりの報告書に目を通していた父は、読み終わるなりさっそく問題点を指摘した。 「この子、草食系男子というより単にコミュケーション...

「『鏡音リン―――15歳、性格は明朗快活、高いコミュニケーション力を持ちながらも恋愛には消極的、過去に何らかの失恋経験がある模様―――』……なるほど」 今日の報告書を、父は興味深そうに読み込んでいる。 「この前のオネくんとはまた違ったタイプだな。過去の失恋が元で恋愛に消極的という...

【SIDE1-ゆかり】 「オネくん！一緒に帰ろ！！」 6時間目終了のチャイムが鳴るとほぼ同時に、ゆかりはオネの腕をガシッと掴んだ。 オネと話すようになってから、ゆかりとリン、オネの三人は毎日一緒に帰るようになった。なったというか、ゆかりが半ば強引にそうしたのだが。 昨日は気づいた...

「……よし！いいだろう。報告ごくろうさん」 今日の報告書を読み終えた父からOKサインをもらうと、ゆかりはホッと一息ついた。 「どうだ？調査の方はだいぶ慣れてきたか？」 「うーんまあね。男子校生活も思ったほど不便じゃないし。ターゲットがこの二人に決まってからは、なんとか話も引き出せ...

「は？休み？？」 スマホに届いたゆかりからのメッセージを見て、リンは教室で一人バカでかい声を上げた。 リンの頭に、昨日のゆかりの顔が浮かんだ。 あくびだとかごまかしていたけれど、オネと一緒に戻ってきたときのゆかりは確かに泣いていた。 「やっぱりあいつ、昨日オネと何かあったんじゃ……」 ...

「オネ様、旦那様から贈り物が届いております。お召し物のようですよ」 執事の三波が、大きな箱を抱えてやって来た。にこやかな笑顔でオネに差し出す。 朝から山盛りのサンドイッチを頬張っているオネは、差し出された箱には一瞥もくれずに、そっけなく答えた。 「いらない」 「そんな……せっかく...

「……よし、今日の報告書もご苦労さん！」 父は読み終えたゆかりの報告書を机の上に置くと言った。 「この調子なら、そろそろ3つ目の任務にも着手出来そうだな」 「3つ目？」 父の言葉に、ゆかりはきょとんとした顔で聞き返した。 「……ゆかりくん、その様子だと忘れてるね？」 「ええっ！？...

「……別に読みたかったわけじゃねーぞ……」 自分の部屋で机に向かい、リンはぼそりと独り言をつぶやいた。 さっきからずっとこんな調子で、リンはやたらと言い訳めいた独り言を繰り返していた。もちろん部屋には誰もいないのだが。 「ほ、ほんとに読みたかったわけじゃねーからな！図書館行ったら...

（早く着きすぎてしまった……） まだ人の姿がまばらな私立益荒男学園の正門前に、オネは立ち尽くしていた。 いつもは大渋滞で20分遅れも珍しくないバスだが、今日は珍しく道路が空いており時間通りに到着したのだ。 （先に図書館へ寄るか……放課後あの二人を待たせなくて済むし） そう思ってふ...

「……しっかし、オネも赤点なんて取ることあるんだな」 帰りのホームルームが終わると、リンは意外そうな顔でオネに声をかけた。 「数学とか化学は、いつもほぼ満点だもんね……」 リンの隣で、ゆかりもおずおずとオネに話しかける。 「あれは問題が破綻している。解けるわけがない」 オネは表情...

昼休み、いつものように学食でお弁当を広げながら、ゆかりは浮かない顔をしていた。 昨日の保健室で起きた出来事を、まだ頭の中で整理出来ずにいたのだ。 オネの冷たく鋭い視線、涙目のタピオカ店員、そして―― ――――――「相手がリンだったら、ラッキーだったかもな」 （オネくんのあの言葉……...

「……よし、良いだろう。今日の報告もご苦労さん！」 報告書に無事OKをもらうと、ゆかりはホッと息をついた。 父は報告書をパラパラと見返しながら、ウキウキした調子で言った。 「いや～草食系だなんだと言っても、やっぱりいろいろ事件は起こるものだねぇ～青春だねぇ～」 今日の報告書のメイ...

「タピオカミルクティーひとつ！」 ゆかりが勢いよくカウンターに300円を出すと、清楚系店員は眉をひそめて不満げに言った。 「あれ～また君が来たの？」 「言ったじゃないですか、これからはオネくんの代わりにボクが買いに来るって」 「え～彼本人が来ないなら売れませ～ん」 「本人だろうが...